ものづくりの心

家族だけで、守り続けていく

さらに、地元・館山の自然も私にとって大事な着想のヒントとなります。例えば、海に近い河口のよどんだ水の色、海を美しく染める青のグラデーション。そんな自然の生み出す色彩がインスピレーションを与えてくれるのです。ちなみに、館山の水は沖縄に次いで鉄分を多く含んでいるといわれますが、この水も染織にとっては大切な財産。鉄分の多い水を使って染めると、色がしっかりと出るのです。また、館山にはかつてヤマモモや榛の木など自然染料となる植物が自生していたといいますから、祖父はそれを使うことができたのでしょうね。そう考えると、館山の自然の中で唐棧織に打ち込んでこられたのは幸せなことだと思います。

いつも私が願っているのは、まず自分自身が着たいと思える唐棧織をつくること。それでこそ身にまとうお客さまに喜んでもらえると思うのです。そもそも木綿の着物には着込んでいくほどに味の出る楽しみがあります。それこそ、織り上がったときが最高の状態で、その後は傷んでいく絹と違うところです。私の祖父が織った着物を3代にわたって着続け、4代目の赤ちゃんに産着として着せたとおっしゃって下さったお客さまがいらっしゃいました。私の唐棧織もそんなふうに長く愛し、着込んでいただきたい。そのためにも、これからも決して手間を惜しむことなく、本当によいものをつくり続けていきたいと思います。

 ものづくりにおいては後継者も重要な問題です。「唐棧織を学びたい」という弟子入り志願もありますが、齊藤家では弟子は取らないことにしています。かつて民藝運動の始祖、柳宗悦さんから言われた「唐棧織は家族だけで守っていくのが一番いい」という言葉通り、私たち家族だけで受け継いでいくつもりです。それは、物心つく前から五感で感じ、受け止めてきた者にしかつくれないものだと思うからです。生まれたときから機の音を聴き、染めの色を見て、糸巻きで遊んで……。そんなふうに私の仕事場で常に唐棧織と触れ合ってきた私の次女は、幼いことから唐棧織に興味を持ち、色彩の感覚も鋭いようです。跡を継ぐことを無理強いするつもりはありませんが、できることなら次女も含めた家族で、これからも唐棧織を守り続けていけるように願っています。