
シンプルさの中にある無限の魅力
染めた糸を織り上げた後に行う「砧(きぬた)打ち」という作業も唐棧織には欠かせません。これは樫の木槌で、布を縦、横、斜めから、さらに裏表まで、まんべんなく丁寧に叩く作業。それによって絹のようなつやとしなやかさが生まれます。こうしたすべての作業のどこかでわずかでも手間を惜しむと、必ず結果に表れ、全く違うものができ上がってしまいます。例えば、本来は何回も繰り返す染めの工程で1回でも回数を減らせば、でき上がった織物の色が早くあせてしまいます。また、微妙に異なる黄の色はそれぞれ別に染めるべきところを、手間や時間を惜しんで一緒に染めてしまうと、色のバランスが違ってしまうのが目に見えて分かります。染め以外の作業でもそれは同じです。糸を作る段階では、原料である綿の油を落とすために、苛性ソーダを加えたお湯で煮る作業を行いますが、このときもガスは使わず、必ず薪でお湯を沸かします。お風呂と同じで、薪で炊いたお湯は柔らかいので、糸も固くならずに柔らかく仕上がるのです。こうしたすべての点から、昔ながらの手法、手間ひまをかけた方法が最上と信じ、それを守ってきたのです。
こうして生まれる唐棧織は、縞というシンプルさ故に、無限に奥深い魅力があります。例えば、藍色を基調とした細かい縞の中に、一本赤の色を織り込むだけで全く違う味わいになるのです。だから伝統を踏襲しながらも、いかに自分らしさを出すかが課題であり、醍醐味。齊藤家では代々、約
130種の縞柄を生み出してきました。私も頭の中で、映える色合いを組み合わせ、基本的な唐棧織よりもずっと多くの色を使った縞をつくり上げてみたりしています。この仕事を継いだころは、「もっと新しいことをやりたい」と考え、迷い、悩んだ時期もありました。でも、縞という制限がある中でデザインを練る面白さを知って初めて、仕事が楽しくなりましたね。
新しい縞柄を考えるとき、大きな助けになるものが家に代々伝わる「縞帖」。曽祖父が収集した古い唐棧織の端切れのコレクションです。唐棧のほかにビロードや刺繍、花柄など珍しい外国の端切れも含まれています。曽祖父は勝海舟さんに可愛がっていただいたそうなので、その関係で手に入れたものでしょう。昔の端切れには今見てもモダンなものが多く、勉強になります。また織物だけでなく、絵画や器などの美術品や工芸品を鑑賞して想を得ることも大切です。