ものづくりの心

Vol.3人が本質的に求める「光」の力を信じて。

Vol.3人が本質的に求める「光」の力を信じて。

シリウス ライティング オフィス  代表取締役 一級建築士

戸恒浩人さん

2010年春の完成と、地上634mの高みを目指して、着々と建設が進む東京スカイツリー。その照明デザインを担当しているのが戸恒浩人さんです。子どものころから抱き続けた「ものづくり」への憧れ。建築学科時代の照明との出会い。そして人の心に響き、さまざまな物語を紡ぎ出す光の力と、それに込める熱い想い。そんな戸恒さんの「ものづくりの心」を伺いました。

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原体験をもとに高揚感を演出

写真1 きっと実績ではじかれるだろう。選ばれるとは思えない」。それが東京スカイツリーの照明提案を依頼されたときの正直な気持ちでした。だから「本当にやりたいことをやろう」と、気負うことなくプランニングできました。若く、実績がない故の自由さ、ということも新鮮に映ったのかもしれません。デザイナーに限らず、キャリアを積んで実績を残してくると、勝つことにこだわって頭で考え過ぎたり、自分で枠や制限を設けたりしてしまいがちですから。
ライトアップのイメージは「夜の富士山」。東京で暮らしていると、何かの拍子で富士山が見えたときに「ラッキー!」とうれしい気持ちになりませんか? 僕が子どものころに経験したその感動を東京の夜景に浮かび上がらせ、ただきれいなだけではない“高揚感”を演出したいと思いました。タワーの上下から光を当てることで、網目状の構造の美しさを強調し、隅田川の水をイメージした粋な水色と、雅な江戸紫の2色で毎日交互に染め上げます。

(東武タワースカイツリー、東武鉄道提供) 

ものづくりをしたい一心で建築の道へ

写真2 スカイツリーは東京の新しいシンボルとなりますが、僕自身、この東京で育ちました。子どものころから憧れ、興味を抱いていたのは床屋さんなど職人の手仕事や、ものづくり。工作少年だったわけではありませんが、人間が何かをしたことで何かが生み出されるという因果関係を観察するのが好きだったんです。父は公務員だったのですが、子どものころ父がどんな仕事をしているのか全く分かりませんでした。結果が分かりやすく目に見えるものづくりの仕事に惹かれたのは、その影響もあるのかもしれません。

大学の建築学科で学んだのも、「ものづくりをしたい」という一心からです。でも実際に入ってみると建築自体にはあまりのめり込めなかったんです。それは、建築の仕事は完成までに長い時間を要し、自分との距離感が遠く感じたから。そのリズムや感覚が自分に合わないと感じたんです。興味を持ったのは、自分自身との距離が近く、軽やかなイメージのあるインテリア。流行りのファッションを楽しむように向き合える感覚でした。

中でも興味を持ったのが照明です。照明なら建築をバックボーンにしながら、自分がすべて把握できる範囲で、多くの人とかかわりながら仕事ができる。そんな距離感とリズム感がしっくりきて、自分に合っていると感じたのです。そして大学3年生のとき、校内の生協でライティングデザイナーの面出薫さんの本に出会いました。その考えに感銘を受け、面出さんの事務所でのアルバイトを志願し、卒業後はそのまま就職。2005年に独立して、「シリウス ライティング オフィス」を設立しました。