
Vol.2「職業的良心」が生み出す正直なものづくり。

株式会社諏訪田製作所 代表取締役社長
小林知行さん
古くから鍛冶職の町として刃物産業が栄えた新潟県三条市。1926年(大正15年)、この地で鍛冶屋として創業して以来、昔とまったく変わらぬ刃物づくりを続けてきた諏訪田製作所。真摯な手仕事から生まれる製品は、他の追随を許さない切れ味と機能美を誇り、世界中で高く評価されています。3代目社長である小林知行さんに、諏訪田製作所が大切にしてきたものづくりの心について伺いました。
精密機械にも勝る、熟練した職人の手仕事
諏訪田製作所は1926年(大正15年)、鍛冶屋として創業しました。私の祖父が錠前の鍛冶屋に奉公をしたのち独立し、はさみなど錠前づくりに使う道具類の製造を始めたのです。現在は、つめ切りや盆栽用刃物など、はさみを中心に刃物を製造していますが、それぞれ50~80にも及ぶ製造の全工程を職人が手仕事で行っています。
鍛冶屋には材料を鍛える“鍛造”を行う「大鍛冶」と、鍛造された材料を使って道具を作る「小鍛冶」があり、今では一般に分業化されていますが、諏訪田ではその両方を手がけています。それは私たちの求める強い鍛造を、高いクオリティで行えるところがほかにないからです。
また、すべての工程を手づくりで行っているのは、熟練した職人の仕事は精密機械にも勝るものだからです。職人の目は製品が帯びた熱の温度を一瞬にして見極め、その手は機械では測定不能なミクロン単位のサイズを測ることができるのです。
大切なのは「よい道具をつくる」という思い
これを支えているのは、諏訪田が代々大切にしてきた「よい道具をつくる」という思いです。私たちがつくっているものは、すべて人が手に取って使う道具。だから切れ味にこそ私たちの存在理由があります。語弊があるかもしれませんが、私に言わせれば、100円ショップで売っている包丁は「包丁」ではなく、「包丁の形をした100円」。本当につくるべきは、真に使いやすいものです。時代によって社会や環境、客層が変化したとしても、この信念は決して変わることはありません。
ときに職人やデザイナーは自分の経験と技を頼りに、自分勝手なものづくりをしてしまうことがあります。でも、それでは使う相手のことを考えているとは言えないでしょう。使ったときに「これはいい」と感じてもらえなければ、それは「よい道具」とは言えないのです。また、造型の美しさは機能の美しさであるべき。つまり、機能的に優れたものはフォルムも美しい、ということは、長年培われてきた技術的な蓄積で証明されています。だから、ただきれいなデザインありきのものづくりは行いません。
プロダクトデザインはすべて私が行っていますが、職人はそれをもとに髪の毛一本分の幅を削るような作業を何度も何度も繰り返し、製品が完成します。プロダクトのすべてを熟知した人間が総合的にクリエートし、作り手がこれに応えることで、機能とフォルムを兼ね備えた妥協のないものづくりが完成するのです。