社長コラム

Vol.16 『約束』 (2009.11)

 

停滞感が拭えない国内の景気浮揚の突破口にと、一縷の望みをかけた2016年オリンピックの東京招致はやはり叶わなかった。その東京にすら後塵を拝したシカゴの敗北は、夫人を先行させ自らもIOC総会に乗り込んだオバマ大統領にとって痛手であったに違いない。そんな大統領の10月9日早朝の眠りを破ったのは「ノーベル平和賞」受賞の知らせだった。言うまでもなく同賞は“地球的視野に立った平和の維持に対して与えられる世界で最も名誉ある賞”であり、これまでも多国間の友好、軍備の廃絶・削減、平和交渉の成果などに大きな貢献があったとされる個人・団体に与えられている。

今回のオバマ大統領の授賞理由について、ノーベル賞委員会は「国際的な外交と民族間の協力の強化のための驚異的な努力」としているが、その象徴が彼が本年4月5日に旧ソ連の軍事弾圧に民主化運動で抗した歴史を持つ東欧の古都チェコ・プラハで行った「核兵器なき世界の実現を牽引する」と宣言した演説であったことは想像に難くない。ただ一部の識者などから「彼は言っただけでまだ何も行動していない」という異論も出ているが、今や世界一の公人であって、何より世界最大の核保有国であり唯一の核爆弾使用国である米国大統領が、世界の核廃絶について歴史上初めて言及し行動を誓ったことの重みは、“言うは易く行うは難し”と揶揄する態度で応じることを許さない大英断であり、意義深い地球的『約束』と言えるであろう。世界で唯一の被爆国であるわが国としては、広島・長崎のオリンピック共同招致も一つのアイデアであるかもしれないが、もっと地に足のついた世界からの共感を得て実質的な成果につながる行動に向け、衆知を絞るべきと思料するがいかがであろうか。

 さて『約束』と言えば、8月の衆議院総選挙で「政権交代マニフェスト」を掲げ驚天動地の大勝を果たした民主党連立政権がスタートして1カ月あまり、良くも悪くも本格的政権交代の新鮮さを日々実感させる初動であり、内閣支持率も高水準を維持している。ただやや疑問に思うのは、今回の選挙で有権者は比較優位で民主党を選んだと推測されるが、新政権の動きは同党のマニフェストが国民との『約束』としてすべて信認されたが如きに映ることである。新たな衆議院体制における初国会も開かれておらず、従って国民には新首相の施政方針も示されず与野党間の質疑もまだ全くない中で、「マニフェストに書き込まれている」という理由だけで政治主導の錦の御旗の下、各大臣の判断で前政権の約束事が次々に反故にされる一方、目玉公約の事業予算は増額されそうな勢いだ。こうした現状は、国民から負託されている国家行政というものの連続性なり一貫性といった観点からは、今少し慎重であるべきと思わざるを得ない。

つまり、政治の世界もやはり曲線的な営為なのであって、何もかも直線的に結果を求めれば良いということではないのではないか。今霞が関では、民主党マニフェストの絶対視が喧伝されているというが、そもそもマニフェストとは「選挙公約」なのであって、即「国家政策」に置き換わるものではない。その実現に当たっては当然に踏むべき政治過程があるはずであり、その道筋の透明化を国民の多くは今回の政権交代に期待したのではなかろうか。すべてが挑戦・改革故に100日のハネムーン期間は見守ってほしいとの民主党幹部のコメントがあったが、当面する日本経済の活性化策や難題多き国づくりに向けたビジョンなどについて、新政権の構想力を早く国民に示しその実行を『約束』してほしいものである。

ひるがえって、私たちも皆で議論し取りまとめた新しい『約束』を今年から共有することになった。それが「新日鉄都市開発の進む道」であり、全社および各部門ミッション・ステートメントである。これからの当社のあらゆる活動の方向性を律する基軸を明確にし、その遵守と実行を将来にわたって私たちはコミットした。だれかに言われてやるのではなく、私たち一人ひとりが自ら取り組んでいく運動として根づいていくことを期待している。そして今、いろんな職場、グループでアクション・プログラムの立案・試行が始まっていることを、うれしく力強く感じながら見守っている。『約束』とは、正しく守られ着実に実行されていくことで初めて価値づけられる。

『みんなで決めたことだから みんなでやり抜く“私たちの約束”』、2月の社員総会で体感した夢と志をもう一度思い起こし、「進む道」の実現に邁進していきたい。

社長コラム

Soft Eyes 〜社長随想〜